租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

税理士資格がない人に税務を依頼してはいけない実利的な理由

 確定申告時期というのもあり、少々業界的な呼びかけで。。。

 

 税務相談や申告書の作成業務は税理士の独占業務であり、税理士でない人はたとえ無償であっても業としてこれを行なってはいけません。資格がないのに税理士業を行う人を「ニセ税理士」などと呼びます。

 これは法令上の決まりであって、立法論としての是非はともかく、少なくとも現在はそういう決まりなのでいけないものはいけない、と言うしかありません。

 もちろん税理士側からこのことをただ繰り返しても建前論かポジショントークと思われてはしまうのでしょうが、ニセ税理士はそれに関わる人の実益から考えても非常に危うい存在です。結構ほんとに心配になることがあります。

 というのも上で述べた税理士の(無償)独占は業界においては当然のことです。税務にきちんと関わった経験がある人でこれを知らない人はいません。

 だとすると、論理的に考えてニセ税理士行為を行う人というのは

 

①業法を知らないほど実際の税務に疎い

②業法を知っていて、あえてそれに反するほど倫理観や遵法意識が低い

 

 かのいずれかにあてはまることになります。そんな人の言うことを信じて税務処理をしたり、申告書の作成を依頼して果たして大丈夫でしょうか? むしろ、素人が外科手術をするようなもので、痛い目にあう確率が高いものと思われます。

 「でも、マネーアドバイザーの○○さんのセミナーでは、××を経費にしていいって言ってましたよ。それで申告書が通ってる事例はたくさんあるって」といった声も聞くことがあります。

 しかし知っておいていただきたいのは、日本の所得税法人税は「申告納税制度」を採用していることです。これは、手続きとして言えば、税額は自己申告だということです。よほど形式的な不備がない限り申告書は出せば受理されます。

 そしてその中から一定確率で事後的に税務調査というものが行われ、不適切な処理は指摘され加算税・延滞税が課されます。

 つまり、不適切な処理をした申告書があるとして、それが問題にならないことは確率論として存在するのですが、そういう事例があるからといってあなたの申告が大丈夫である根拠にはなりません。

 そのセミナー講師が加算税が出たときに責任までとってくれるというのであれば経済的な意味での損はありませんがそれは言わないと思います。

 またそもそも論として、本当に他人にアドバイスできるほど税法の知識を十分に有しているのであれば税理士試験に合格すればいいだけの話です。

 結論として、ニセ税理士行為をするということはその時点で専門知識または倫理観が欠如した人であることがわかり、そうした人に頼るのは医師免許のない「医療ドラマを見ただけの素人」に手術をお願いするに等しい危険な行為です。法令に違反するのは当然として、事実上も大きな問題があります。もちろん実際的に利益があったとしてもダメなことは言うまでもありませんが。

 

 念のため付言しますが、私はここで例えば税理士事務所の無資格職員のことを貶しているわけではありません。資格がなくても優秀な人はたくさんいます。しかしそうした人は倫理観も兼ね備えているため、ニセ税理士行為はしません。

 また、逆に税理士も業法問題に注意を払うべきこともまた当然です。関連士業の領域を侵すことはしてはなりません。