租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

ビジネス実務法務検定3級(IBT)の様子と感想

ビジ法試験

先日、東京商工会議所が主催するビジネス実務法務検定試験の3級を受験(合格)しました。

その名の通りビジネスの実務で扱うような法務の知識を問う検定試験です。

税理士である私が受けた動機としては「自分を含めて税理士、民法・商法音痴多くない?(^^;」という気持ちがあったためです。基礎固めや再確認のつもりで受けました。

それなりに認知度はある検定だと思いますが*1、今年度から始まったIBTの受け方などについて意外にネット上に体験談や情報が少ない気もしたので情報共有程度にその様子と感想について書いてみます。

 

全体的な感想

はじめに全体的な感想を言うと、内容が良く有用な試験だと思いました。

会計事務所目線では、職員全員に合格を課してもいいんじゃないかな?という感じです。

民法・商法(会社法)の基礎や労働法など仕事をする上で欠かせない法律の基礎を学べて、しかも3級は問題の内容が適度に優しく意地悪がないため、受かりやすい試験です。何らかの形で勉強をした上で「研修や講義を受けた後の確認テスト」くらいの感覚で受けられます。

これくらいなら「勉強のための勉強」にもならないし、試験の嫌なプレッシャーを感じずに前向きに勉強しつつ試験合格によりそれなりの理解が担保できるという印象です。

 

前々から思っていたのですが、現実社会のビジネス取引は基本として民法・商法に規律されているわりに、簿記検定はひたすら複式簿記のメカニズムを問うのみで法律知識は全く身につきません。これはマネーリテラシーに関する人気試験であるFPについてもほとんど同様です*2

そして経理の採用などでも簿記検定の有無が圧倒的に重視されるため、結果として世の中の経理関係者は「簿記についてはめちゃくちゃ掘り下げて頑張ってきて税効果会計の仕訳も切れるが民法については典型契約の種類も知らない」というある種偏った状況に陥りがちなのではないかという感覚があります(個人の感想なので違ったらすみません)。

ビジネス実務法務検定は、簿記やFPでは不足しがちな「法務」を補うのにちょうどいい試験なのではないかなぁと思います。

 

IBTの様子

現在、ビジネス実務法務検定2級・3級は原則としてIBT(Internet Based Test)という方式で試験が行われます。これは好きな日時を選んで申し込み、受験者の自宅や会社のパソコンを使って受験する方法です。

いきなり聞くと「自分のパソコンで自宅で受けるって、カンニングとかし放題では??」と思ってしまいますが、そこはリアルタイムでパソコンのインカメで監視(録画)されるという形で公正さを確保しています。

場所自体はどこでもいいのですが、他の人が映ったり声が入ったりすることがなく、周囲に余計なものが置いていないといった条件を満たしている必要があります。

あくまでも今回受験した私の場合、という限定付きですが、流れと注意点を書いてみます。

  • 申し込みをしたときに送られてきたメールのURLからシステムの受験画面にログイン。画面の共有をかけ、本人確認申請のボタンを押す。ここで30分ほど待たされる場合もあるとの注意書きがありましたが自分の場合10分足らずでした。
  • 試験官(テレフォンオペレーターみたいな感じの女性でした)とビデオ通話状態になる。まず指示に従って一旦ブラウザを最小化して、元に戻す。余計なアプリなどを起動していない確認でしょうか。デスクトップを見られるので壁紙などはなんとなく恥ずかしくないものにしておいたほうがいいです。
  • さらに自分の周囲360度、テーブルの上をインカメで映す。「360度…」に関しては置いているノートパソコンをそのまま水平方向にゆっくり回しました。どの程度試験官の方に見えていたのかは定かではありませんが特に何も言われませんでした。「テーブルの上」についてはパソコンを持ち上げて斜め上からテーブルを映すようにして示しました。このときに、花粉症であることの不安からティッシュをテーブルの上においていたのですが、どけてくださいとの指示があったのでどけました(置かせてくれてもよくない…?と思いましたしもしかたしたらこの辺は試験官によって対応が違うかも)。
  • 本人確認をする場合はする。自分の場合は事前に本人確認書類をアップロードしていたので「お顔を拝見します。はい大丈夫ですね」と言われて終わりました。
  • ものの1分くらいで上記の確認は終わり、「それでは失礼いたします。試験頑張ってください」と言われてビデオ通話画面は消えました。頑張ってくださいの一言はありがたいですね。自分でボタンを押せば試験スタートで、実はここは事前に申し込んだ時間ピッタリでなくても始められます。
  • 試験自体は答えだと思うものをクリックしてチェックを入れればいいので操作はすごく簡単です。残り時間が常に画面上部に表示されているので、自分で別途時計を確認する必要はありません。
  • 紙の試験と違って問題文にチェックを入れたり(無いな、と思った選択肢にバツをするなど)登場人物の関係を図にしてメモしたりすることができませんので、全て頭の中で把握する必要があります。3級程度のレベルであれば問題はないと思いますが少しつらい受験方式だと思いました。
  • 監視の都合上常に自分の顔・上半身がカメラに映っていなければなりませんし、不審な動きはできません。この辺の事情が組み合わさって、試験中どうも問題に集中できずボーっとしてしまいました。ビデオの画面が表示されているわけではないものの、インカメでずっと見られていると思うとなんとなく落ち着きません(もちろん試験官の方はずっとこちらを凝視しているのではないでしょうが)。
  • 問題文は1問ごとに画面が切り替わる表示で、「前へ」「次へ」というボタンがあって戻ったり飛ばしたりすることができます。また「一覧」という画面もあり、第○問について解答済みかどうかを確認することができます。ただし一覧の画面の情報はそれだけです。難しい問題は答えずに一旦飛ばして後で戻るときに使ったり、最後に解答漏れがないかと確認するときに使う用途でしょうか。正直「答えたけど自信がない」問題があったとしてもそれが第何問かなど覚えていられないので、一問一問着実に答えて倒していくのが正攻法かなと思います。私の場合は終盤に一応「一覧」を確認したらちゃんとクリックできておらず解答できていないものがあったため、その確認はした方がいいと思います。
  • 解き終わったなと思えば好きなタイミングで試験終了ボタンを押して終了できます。合否・得点もすぐに見ることができます。これはとてもいいと思いました。終了にあたって特に試験官とやりとりをする必要もなく、自宅受験ですから、終わった瞬間から即「自分ちのプライベート時間」に戻れます。他の検定試験だと試験時間が終了しても「解答用紙の枚数を確認するまでお待ちください」と待たされたり、受験者が駅に殺到する帰り道を経なければならなかったりするので、ここは結構ストレスフリーな部分。ただ、解いた問題を見ることはできないので「この問題難しかったなー」みたいな反省会ができないのはやや寂しい部分。
  • 規定の試験時間は90分でしたが、私の場合ボーっとしながらゆっくり解いても35分で終わりました。

一応体験をつらつらと書きましたが、公式の受験案内を普通に読んでおけば特段戸惑うことはないです。受験中にWindowsアップデートが始まってしまい強制終了になったという泣ける体験談もあるようですので受験するパソコンは事前にある程度慣らしておいたほうがよさそうです。

 

学習期間

私の場合ビジネス実務法務検定3級に向けた勉強をしたのは2週間程度でした。夜に1~2時間テキストを読む、問題解いてみる(やらない日も…)というくらいの勉強です。

とはいえこれは一応税理士で日頃ある程度会社法民法を扱っているから「まぁ3級は勉強しなくても受かるかな」という判断があっての話です。法律に馴染みがない方であれば1~2ヶ月はとったほうがいいと思います。逆に3ヶ月も4ヶ月もダラダラやるようなものではないのである程度期間を決めてトライするのがいいかもしれません。

 

テキスト

テキストは公式のものを含めて何種類か出回っています。私は公式テキストを使用しました。

 

 

公式テキストを選んだ理由は出題範囲自体が「ビジネス実務法務の知識を問う」のではなく「3級公式テキスト(2021年度版)の基礎知識と、それを理解した上での応用力を問います」と宣言していて聖典としての意味があるというのもありますが、何より内容がしっかりしていたという理由です。

というより、書店でこの公式テキストをパラパラ見たときに内容や掘り下げ具合が非常に有益で素晴らしいと思ったのが私がこの検定試験を受けた理由そのものでした。

それくらいこのテキストに書いてあることは「あーこういうことって勉強しておくと仕事の役に立つよね!」と思えますし説明も適度にていねいで適度に簡潔でわかりやすいです。

普通に民法会社法の本を読む場合とは違って、あくまでも実務的な法務の視点から内容が構成されています。例えば預金通帳の管理やビジネス文書を何年保管すべきかなど、案外総務・経理の実務できちんとした答えを習わないし誰に聞いたらいいのかもわからない(そしてネットでいい加減な情報が多い)ようなことが説明されています。

また、契約書の見方については見本となる契約書の例を踏まえながら割印や契印などの押印の種類が説明されていたり、登記事項証明書の取得の方法がコラムに書かれていたり……など、かゆいところに手が届くといいますか、「実務的にこの知識は押さえときたいよね」のオンパレードというわけです。

なんならビジネス実務法務検定自体は受けなくてもいいからこのテキストは中小企業に辞書的に「一家に一冊」置いといてもいいのではないか?とすら思います(他にこういう種類の本ってあるんでしょうか)。

なんだか無駄に絶賛しているようですが、基本的には単にビジ法の試験内容を褒めているのであって他のテキストでも同じ機能は果たせるとは思いますし、記述自体は「ですます調」ではあれど一応堅いので、民法にそもそも馴染みがない人がこれを読み下して学習するのはハードルが高い気はします。ゼロスタートの方は何か別の民法入門書を読みましょう。

 

問題集

問題集は公式ではなくネットで評判がよかった「テキストいらずの問題集」を使いました。

 

正直FP3級やビジ法3級レベルの難易度の択一試験であれば問題演習回すのが合格への最短ルートだとは思います。

FPについては「過去問道場」という最強のウェブサービスがあってそれだけやっておけば合格できますが、ビジ法についてはそれに相当するサービスがありません。

本書はひとつのページに問題、めくった次のページに解答、というスタイルで、紙ベースではあれど唯一私が求めるテンポの良い問題演習ができるようになっていて有用そうだったので買いました。

使いやすいしおそらくこれだけやれば合格できるであろうという点は基本的にすごく評価しているのですが、「テキストいらず」と言うわりには解説文が残念ではありました。

例えば以下は裁判所の種類についての解説です。

適切である。日本の裁判所として、最高裁判所のほか、高等裁判所地方裁判所家庭裁判所及び簡易裁判所が設置されている(裁判所法1条、2条1項)。したがって、日本の裁判所は、最高裁判所高等裁判所地方裁判所家庭裁判所簡易裁判所の5種類であるから、本肢は適切である。

こんな形で「Aである。したがってAであるから、適切である」という小泉進次郎構文のような解説文が非常に多いです。

建付けとしては根拠法令と問題へのあてはめということのようですが、さすがにそこまで言われなくても一般論部分だけ読めば正答との結びつきはわかるし、どうせ限られた紙幅の中で解説を載せるならそれに関連する(異なる問題を解くときにも役立つ)ような補足情報を載せるとか、全体的な理解に役立つような解説をつけてくれればいいのにと思います。

そもそも体系的に趣旨や内容を理解するには本書では全然足りないので、「テキストいらず」というのはビジ法3級の難易度・出題形式的にそれが可能なだけであって本書が体系的理解ができるように配慮されているためではないと感じるところです。

あと、各問題ページの右上に難易度を星3段階で表してあるのですが、ほとんど全てのページが「★★⭐︎」と同じ難易度で、わざわざ載せている実益が正直わかりません(笑)

なんだか文句たらたらのようではありますが、漠然とテキストを読むより問題を解いた方が頭に入るし、似た問題が出ることが多いビジ法3級においては、合格への効率的な道という意味では本書はとても有効です。

 

*1:私自身は、書店でよくテキストを見かけて気になっていました。法務への漠然とした苦手意識もあり、なんとなく(ビジ法への合格に)憧れてもいました。

*2:私は2級までの保有者ですが、不動産の文脈で若干売買契約・賃貸借契約について聞かれる部分や相続問題の絡みで相続法が問われることはありますが、民法を正面からやるわけではありません。