租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

会社法から見た使用人兼務役員

使用人兼務役員という存在

 税務においては「使用人兼務役員」というのは非常に馴染みがある用語で、税理士的にはその存在の是非を疑ったことすらない人は多いのではないかと思います。

 しかし冷静に考えると役員(ここでは取締役とする)は株主の委任を受けて会社を経営する人、使用人は会社に雇われて指揮命令に服して労働をする人ですから、矛盾してね?とも思うところです。

 そもそもそんなことが会社法上認められるのかとか、就業規則の適用についてはどうなるんだという素朴な疑問が湧くので、少し整理してみます。

 

会社法における使用人兼務役員

 会社法では監査役が使用人を兼務することは禁止されています(335条2項)*1が、取締役については特にこのような規定はありません。なのでその意味では「認められている(禁じられていない)」、そして現実に多く存在する、という理解の仕方になります。

 色々参照した中でも京都の法律事務所さんが公開されているPDFがわかりやすかったです。

 リーガルクエス会社法ではその存在根拠につき詳しい議論はされておりませんが「業務を執行する取締役は、使用人を兼務する場合もある(使用人兼務取締役)。この場合には報酬の決定につき問題を生じる」*2とし、その存在が成立することを前提に報酬の定め方について注意を促しています。取締役としての報酬は株主総会で決めるけど使用人としての給与はそうではないという話ですね。

 

 

労働法における使用人兼務役員

 次に労働者としての扱い、具体的には就業規則の適用を受けるのかという点ですが、これについてはやはり単純に「取締役もやっているし使用人もやっている」という事実から、使用人としての労働の部分については就業規則の適用があると解されます(上記PDF参照)。

 懲戒による減給や解雇も可能ですがそれはあくまでも使用人としての地位に関することであって、取締役としての地位に関しては株主総会が預かる問題となります。

 

法人税法における使用人兼務役員

 今さらですが法人税法での使用人兼務役員とは、役員(社長、理事長その他特定の役員を除く。)のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するものをいいます(34条6項)。

 さらに代表取締役や副社長・専務・常務などの地位を有する役員、監査役などは使用人兼務役員にはなれないわけですが、これはそもそも経営のトップを委任されていることと経営側からの指揮命令に服することとの矛盾、あるいは監査役は使用人を兼務できないという会社法の規定を前提とすれば、理解しやすいかと思います。

 

 やっぱり私法あっての税法ですね。

 

*1:当然ながら監査役は監査をする立場なので、自分で業務を執行してしまうとコーポレートガバナンス上の問題が生じます。そのため取締役や使用人を兼務できません。

*2:伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征『会社法〔第3版〕』175頁(有斐閣2015)。版古いですよね。。。