租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

e-TaxのID・パスワード方式に関する注意点

確定申告振り返り

今年もなんとか確定申告が無事終わり、ホっとしています。

筆者は税理士であるため業務用のソフトを使ってお客様の確定申告をe-Taxで代理送信しており自分が直接関わる機会はないのですが、税務行政をめぐる話題として今回の申告からe-Tax「ID・パスワード方式」が導入されたというのが気になっていたのでTwitterなどでフリーランスの皆さんの様子を見学しておりました。

 

e-Taxのおさらい

簡単におさらいしておくと、e-Taxというのは税金の申告や申請など各種の手続きがインターネットを通じて電子的に行えるという国税のシステムのことです。

e-Taxを使えば確定申告書を税務署に持っていったり郵送する必要がなくネットで提出することができるため便利というわけです。紙ではなくe-Taxで申告書データを送信(申告)することを「電子申告」といいます。

ただしこれまでe-Taxで確定申告をしようと思うと電子証明書とカードリーダーが必要ということで、これがe-Tax導入の大きな障害となっていました。電子証明書は今ではマイナンバーカードですからこれはまだいいとして、カードリーダーに関して多くの方が「は? カードリーダー? そんなの持ってないしそれ以外に使わないのにわざわざお金出して買うかね?」という気持ちを持つでしょう。

そこで救世主のように(?)登場したのが前述の「ID・パスワード方式」です。これは税務署の対面による本人確認でIDとパスワードを発行してもらえば、それを使って(カードリーダーがなくても)e-Taxによる電子申告が行えるというものです。

それなら随分e-Taxが身近になるなと思いましたし、実際フリーランスの方などでこれを機にe-Taxを使ってみようとID・パスワードの発行を行った方は多かったようでした。

 

ID・パスワード方式の阿鼻叫喚

ところがです。Twitterでみなさんの様子を拝見していると「会計ソフトで申告書のデータを作ったもののID・パスワードによる送信ができない」という方が続出していました。いったいどういうことなのかはじめはよくわからなかったのですが、だんだん状況が掴めてきました。

「送信できない!」と阿鼻叫喚する典型的な流れは下記です。

 

(1)freeeなどのソフトで帳簿をつけて申告書のデータを作る

(2)それをe-Taxで申告しようとするも、何故かできない

(3)IDとパスワードで送信できると聞いてわざわざ発行してもらったのに意味不明でパニック

 

この場合の問題は実は(1)から(2)への流れにあります。

 

ID・パスワード方式とは何なのか

よくよく調べてみるとe-Taxのウェブサイトには下記の記載があります。

 

<ID・パスワード方式>  

「ID・パスワード方式の届出完了通知」に記載されたe-Tax用のID・パスワードを利用して、「確定申告書等作成コーナー」からe-Taxを行う方法です。 マイナンバーカードとICカードリーダライタは不要です。

「ID・パスワード方式の届出完了通知」の発行は、税務署で職員による本人確認を行った上で発行しますので、運転免許証などの本人確認書類をお持ちの上、お近くの税務署にお越しください。

なお、平成30年1月以降、確定申告会場などで既に「ID・パスワード方式の届出完了通知」を受け取られた方は、平成31年1月からご利用いただけます。

※ マイナンバーカード及びICカードリーダライタが普及するまでの暫定的な対応です。

※ ID・パスワード方式は確定申告書等作成コーナーでのみ利用できます。

www.e-tax.nta.go.jp

 

大事なところを太字にしました。ID・パスワード方式は「確定申告書等作成コーナー」からe-Taxを行う方法なのです。

ここで「確定申告書等作成コーナー」というのは、e-Taxのウェブサイトに用意されている、フォームに数字を入れていって申告書を作成する専用ページのようなものです。広いe-Taxという仕組みの中の、ウェブ上で申告書を打ち込むひとつの機能ということになります。

つまり、普通はfreeeなりやよいの青色申告オンラインなりのソフトで便利に申告書が作成できて、それがそのままe-Taxで送れると考えます(当然の期待です)。しかし、ID・パスワード方式ではそれはできないわけです。「確定申告書等作成コーナー」でひとつひとつの数字を手入力するやり方でしかID・パスワードによる電子申告はできません。

なんじゃそりゃと思いますがそういうものなのです。

 

ソフトで作ったデータを読み込んで送るならカードリーダーが必要

もっともe-Taxというシステムそのものが「会計ソフトでデータを作ってそれを送信」という仕組みに対応していないわけでは(さすがに)ありません。できるのですが、そうやって電子申告したいならカードリーダーが必要になります。

このあたりのことはfreeeのサポートページなどが詳しいのでリンク先を見ていただければと思います。おおまかには会計ソフトからデータを吐き出して、それをe-Taxを使うためのソフトで読み込んで送信するという流れです。

 

 

結局どうすればいいのか

結局のところ「カードリーダーなどというものは持っていないし買いたくもない、それでもe-Taxで申告ができるようにID・パスワードは税務署で発行してもらった」という人はどうしたらいいのでしょうか。

 

(1)はじめから「確定申告書等作成コーナー」で申告書を作成して、ID・パスワード方式で電子申告する(国税ははじめからこれを想定しています)。

(2)会計ソフトで申告書を作成して、「確定申告書等作成コーナー」でその数字を全て手入力し直してID・パスワード方式で電子申告する。

(3)いっそ電子申告をあきらめ、会計ソフトor「確定申告書等作成コーナー」で申告書を作成して紙に印刷し、税務署に持参or郵送する。

 

選択肢としては結局これしかありません。(1)ではじめから「確定申告書等作成コーナー」で作るといっても事業所得などは収入や経費の集計の下準備は必要なわけですから、それを会計ソフトで効率的に行うと考えれば(2)の選択肢も(二度手間なようで)そんなに悪いものではありません。覚悟を決めてやればさほど時間もかからないはずですし。

 

e-Tax青色申告

正直、ここまで色々混乱があったり手間がかかると「そもそもそこまでして電子申告をする意味があるか?」ということを考えずにいられません。会計ソフトで申告書自体ができているのであれば、あとはそれをただ印刷して郵送すれば済むではないかと思うからです。たしかに印刷代や郵送代はかかりますがそこまでの金額ではありませんし、税理士である私自身も自分の確定申告は郵送で提出しています。

しかし問題は青色申告を行っている方です。今年(2019年)の所得までは電子でも書面でも税額的な有利不利はないのですが、2020年の所得の申告から青色申告の特別控除額が電子なら65万円、書面なら55万円と電子申告が有利になることが決まっています。税率が5%の人なら所得税で5千円、住民税等を含めればもっと得になりますから、カードリーダー代2,000円くらいは税額のメリットで1年で取り返せる計算です。

そしてまたID・パスワード方式は3年が目途の経過的措置であることが明言されています。

これらの諸条件を総合すると青色申告で65万円の特別控除を受けている人に関しては近い将来カードリーダーを使った電子申告を導入すべき。カードリーダーの購入費用はかかるが会計ソフトとの連動で減らせる手間や書面で提出する場合の交通費・郵送代が浮かせるし、何より2020年以降は電子申告の方が明確に税額が減らせるからカードリーダー代を払ってでも電子申告をしたほうが得」ということになります。本当にID・パスワード方式がなくなるなら、ですが。

逆にこれを国の制度設計という観点から読み解くと「将来的には電子申告を強く推進していきたいと思う。しかしカードリーダーを導入したりする負担はあるだろうからその点は税額計算の恩恵でケアする。そしていきなりでは戸惑うだろうからいったんID・パスワード方式という中間的な経過措置を設ける」ということなのでしょう。

いったい何故ここまで頑なに電子申告にカードが必要なのかはわかりませんが…。