租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

雑所得の損益通算が認められていない歴史的背景

雑所得で生じた損失を他の所得と通算することができない理由について深く考えたことはなく、まぁ中身が色々で往々にして家事的な領域にも近いものだしなという程度の認識でしたが、『税務事例研究』を読んでいて経緯の説明があったので「へぇー」と思いました。

流れとしては、かつては雑所得でも損益通算が認められていたものの昭和43年の改正で見直されて損益通算が不可になったそうです。そこでの建前は家事関連費も多い実情といったところですが、さらに言うと具体的に問題視された類型もあったと。

 

 興味深いのは,法改正の理由として,国会議員による還付請求があげられていることである。すなわち,政治献金等が雑所得となることを前提に,損益通算を利用して歳費に係る源泉徴収所得税額の還付請求を行う議員が多発したのである。
 そもそもこの問題は,確定申告をしない国会議員が多い上に,政治家の所得が把握しにくいことから,昭和42年の確定申告からは,雑所得として必要経費を認める代わりに,きちんと申告させようとしたことから始まる。ところが,実際には,損益通算を悪用して,雑所得に係る収入金額が存在しないのに必要経費だけを計上した還付申告が相次いだため,国会においても当時の泉美之松国税庁長官が追求されたという経緯がある。

 

渡辺徹也  「デジタル社会における副業および就業形態の変化と所得課税―ギグワーカー、テレワーク、ジョブ型雇用―」『税務事例研究』192号
※直近1年間は電子書籍PDFをDL可

 

要するに国会議員による不正還付みたいなものが横行したのですね。

上記引用の論考ではガチ研究者である渡辺先生がいわゆる副業赤字の無税入門にも触れていて面白いです。一読をおすすめします。