租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

税務

年末に年末調整制度について考える

税制審議会答申 『税理士界』第1395号に掲載されていた日税連から「税制審議会」への諮問に対する答申「源泉徴収制度のあり方について―令和元年度諮問に対する答申―」を読みました。 税制審議会は(特別委員)金子宏東大名誉教授を会長、中里実東大名誉教授…

税理士から見た中退共・特退共

制度の概要 顧問先から「従業員のために退職金制度を作りたいと思っているが、どのようなものが考えられるか」という相談を受けたことがあります。 その際に自分は中小企業退職金共済をオススメしました。似たものに特定退職金共済があります。 制度をざっく…

「副業収入20万円以下なら確定申告不要」の注意点

「センセー、今年〇〇の収入があるんですけど、確定申告必要ですかね?」といった会話をする季節になってきました。 ここで、給与所得者が給与所得以外の所得が20万円以下なら確定申告不要(所得税法121条)の規定を適用することは実務上結構多いかと思いま…

法人成りの新展開

2種類の法人成り観 興味深い論文を目にしたので、今回はそれをテーマに。日本証券経済研究所のウェブサイトで公表されている田近栄治先生の論文です。 事業体選択と社会保険料—増大する社会保険料への事業主の対応と帰結— この論文ではイギリスで横行してい…

確定決算主義のお勉強

合同会社と確定決算 くどいようですが合同会社のことを考えています。以前に書いたように、合同会社には(デフォルトでは)株式会社でいう「株主総会」にあたる意思決定機関がそもそも存在しません。 そこで法人税法の確定決算主義(74条)との問題が起こる…

合同会社の税務周りの話(5)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5)←イマココ その4で終わるつもりでしたが追加編。 ☆合同会社のポイント⑪ 損益分配の計算と利益配当可…

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4)←イマココ 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3)←イマココ 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2)←イマココ 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(1)←イマココ 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 最近関与先で合同会社がちらほら増えてきました。主に、個人事業主の法人成りというか、ス…

くれぐれも特定新規設立法人にご用心

消費税の「特定新規設立法人」の規定、みなさんもう慣れましたか? ものすごくざっくり言うと「新しい法人を設立したとき、支配株主や関係者に課税売上5億円超のものがあると新設法人も1期目から課税事業者になる」というものです。 わかりやすい例では課税…

源泉徴収義務と家事使用人

2人以下なら源泉徴収不要? 先日、以下の質問を受けました。 当方個人事業主なのですが、親戚の手伝い2人に少額の給料を払っているだけなら源泉徴収をしなくていいのですよね? これは誤解です。 この問題はおそらく所得税法184条・200条の「家事使用人」と…

年末調整の電子化

1.年末調整電子化の概要 あまりアンテナを張っていないうちに年末調整に関する手続きの電子化が色々と具体化されていました。 年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降) 年末調整手続きの電子化及び年調ソフト等に関するFAQ(PDF/2,6MB…

クラウドファンディングの税務と課税要件

1.クラウドファンディングってなんだっけ 顧問先の帳簿でクラウドファンディングの支出を見つけました。 クラウドファンディングとは、おそらく厳密な定義は存在しませんが、一般的な用法としては「特定の目的のためにインターネットを通じて不特定多数か…

キャッシュ・フロー計算書を理解してなくても100%作れる「ちぎりCF計算書」(3)

(1)・(2)からの続き taxlawlabyrinth.hatenablog.com taxlawlabyrinth.hatenablog.com 後輩「先輩直伝の〔ちぎりCF計算書〕で、とりあえず簡易的なCF計算書が作れることはわかりました。しかしどうしてこういうやり方でCF計算書ができるのかはいまひと…

キャッシュ・フロー計算書を理解してなくても100%作れる「ちぎりCF計算書」(2)

(1)からの続き taxlawlabyrinth.hatenablog.com 後輩「利益と現預金増減の差がキャッシュ・フロー計算書(以下、CF計算書)の内容になるのだというのはわかりました。漠然と計算書を見るより一番上と一番下をまず見ればいいんですよね」 先輩「そういうこ…

キャッシュ・フロー計算書を理解してなくても100%作れる「ちぎりCF計算書」(1)

「損益計算書と貸借対照表は見慣れているけどキャッシュ・フロー計算書がよくわからない。特に間接法がわからない」とよく言われます。 これに関して「簡単にわかる説明」のようなものはネット上にもたくさんありますので、私がさらに似たような試みを行う意…

中小企業における予算作成の意義(税理士視点から)

1.血の通った管理会計実務本 本日のお題は、こちらを読んで考えたことです。 梅澤真由美『今から始める・見直す 管理会計の仕組みと実務がわかる本』(中央経済社2018) 書店でぱらぱらと立ち読みしたときは少し堅くて教科書的すぎるかなぁと思いましたが…

所得概念論を税理士実務に活かす

1.とある確定申告書 今回は所得概念と実務について思いつき程度に少し考えてみたいと思います。 考えるキッカケは今年の確定申告業務において新しくご依頼いただいたお客様の過去の申告書を見たことです。 そのお客様は個人事業主なのですが物を仕入れて売…

相続税申告が不慣れな税理士のための超実務本

1.相続税申告業務の特殊性 確定申告時期に久しぶりの相続税申告を行ったので情報の整理として。 相続税の申告というのは、特化型としてやる税理士事務所はたくさんやる一方で、オーソドックスな法人顧問を中心とする税理士は稀にしかやらない傾向があるや…

経費家事按分の原則論を確認する

1.実務上の取り扱い 確定申告の時期になったので個人所得税らしいネタで。 例えば個人事業主の車で、仕事とプライベート両方に使っているものがあるとします。 このとき、例えば「だいたい仕事とプライベート半々で使っているから減価償却費のうち50%を必…

会計事務所にはじめて勤める未経験者がまず読むべき本

以前書いた会計事務所初心者向けの決算のおすすめ本の記事が意外と読まれているようです。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com そこでもうひとつ、過去の自分に向けた「会計事務所に就職したらこれを読め」という指南本を書いておきます。どちらかというとこち…

個人事業と法人成りの税・社会保険負担に関する研究報告

今月の東京税理士会の会報誌「東京税理士界」を読んでいたら税務会計学会の研究報告が興味深いものでした。 実務研究「事業体選択と税・社会保障事例研究」(リンク先PDF) 個人で事業を行うのと、法人化して事業所得相当額の給与をとるのと、どちらが税制上…

「お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください! 」

少し前に、税理士の大河内先生という方が書かれた『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください! 』を読みました。 もちろん私は税理士ですのでこの本で税金のことを勉強しようという気持ちはないので…

退職所得の受給に関する申告書が出ていない場合の住民税の特別徴収

役員・使用人に退職金を支給したときは「退職所得の受給に関する申告書」を記入・提出してもらうのが税務的に一番重要な手続きです。 これが提出されていれば勤続年数に応じた退職所得控除を差し引いた2分の1に累進税率を適用し源泉徴収をします。退職所得控…

有用すぎて毎年必ず買う確定申告本

実務に有用すぎて毎年必ず買っている確定申告の実務書を今年も買いました。 天池&パートナーズ税理士事務所編集の『図解・表解 確定申告書の記載チェックポイント(平成31年3月15日締切分)』です。 この本のいいところは一言で言えば「確定申告実務の要点が薄…

配偶者が青色申告をしている場合の配偶者控除の判定と年末調整書類の記載

1.青色の65万円を引く前か後か 改正があって色々とややこしいことになっている配偶者控除ですが、納税者自身の合計所得金額が900万円以下で、配偶者の合計所得金額が38万円以下であればこれまで通り38万円の配偶者控除が適用されます。この部分をつかまえ…

会計事務所初心者向け決算・申告書作成の手引き本

1.意外にセオリーのない「決算」という業務 筆者が会計事務所(税理士事務所)に就職した当初困ったことのひとつに、「決算」及び「申告書の作成」という業務についてこれといったセオリーやマニュアルがないことがあります。 仮に簿記論や法人税法の試験…

理事等の役員に年に一度支給する報酬の事前確定届出

一般社団法人ナントカ協会といった団体で、理事や監事に多数の人が名を連ねており、毎月給与を払ったりはしないけれども、年に一度理事会やら総会を開いてお車代程度の意味合いで各人に5万円とかの報酬を支払う、といったケースは「あるある」かと思います。…

現物給与として支給する物品の購入は課税仕入れになる

給与の支給が支払者にとって課税仕入れにならないことは言うまでもありません。 これに伴って(?)、例えば交際費や福利厚生費が税務調査において給与認定されると、(源泉徴収義務が発生し役員給与であれば損金不算入の加算調整が必要になるのと同時に)消…