租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

税務における株価評価に改正の気配(残余利益法)

あなたは加藤論文の存在を知っていますか 最近、佐藤信祐先生が書かれた下記の本を読んでいます。 これまで佐藤先生の本というと組織再編に関する技術的な内容のものを読むことが多く、そういうイメージを持ちがちだったのですが、本書は博士論文をバックボ…

「副業で赤字を出して損益通算で節税」とか普通に否認されています

1.巷で言われる”節税術” どこが出所なのかはわかりませんが「サラリーマンが副業で赤字を出して事業所得として申告すればその赤字を給与所得から引くことができる」という”節税術”が時々話題になります。 残念ですが税理士から見るとこの”節税術”はダメで…

〔書籍〕『一般社団法人・一般財団法人の税務・会計Q&A』

田中義幸『一般社団法人・一般財団法人の税務・会計Q&A~本当に知りたかったポイントがわかる 税理士からの相談事例100~ 』(第一法規2019) 税理士の実務に馴染む一冊 久しぶりに一般社団法人を担当するので知識の整理のために買いました。 惹かれた…

税理士がFP3級を受けてみた話

タイトル通り、去る5月23日にFP3級を受けてきました。 1.受検の動機 税理士というとどうしても「税務を正確にこなす」ことに意識がいきがちですが、当然ながらお客様(顧問先)の目的は税務そのものではなくて、事業を通じて自己実現をしたり経済的に豊か…

インボイス制度開始に向けて考えるいくつかの実務ポイント

インボイス制度の導入に向けて少しずつ勉強。以下は(会のマルチメディア研修で熊王先生の講義を聞いたのを中心に)勉強メモの落書き程度に。 (1)令和3年10月からインボイス発行事業者の登録申請受付開始。令和5年10月から制度開始。 このタイムスケジュ…

特定口座の所得は申告しなければ「合計所得金額」に含まれない

タイトル通りの記事です。確定申告本格稼働を前に自分への注意喚起の意味でも文章にして確認しています。 金融所得を特定口座(源泉徴収有)で受けている場合、自動的に20.315%で源泉徴収がなされ確定申告の必要はありません。この申告不要制度を採用してい…

〔裁判例〕個人事業主が自身が代表を勤める会社に支払った外注費の必要経費性

個人事業主は自分が代表を務める会社に外注費を支払えるか? 税務通信か何かで見かけて気になっていた裁判ですが、地裁・高裁の判決文を読んでみました。大阪地裁平成30年4月19日(控訴審:大阪高裁平成30年11月2日)判決です。 事案としては燃料小売業を営…

税理士資格がない人に税務を依頼してはいけない実利的な理由

確定申告時期というのもあり、少々業界的な呼びかけで。。。 税務相談や申告書の作成業務は税理士の独占業務であり、税理士でない人はたとえ無償であっても業としてこれを行なってはいけません。資格がないのに税理士業を行う人を「ニセ税理士」などと呼びま…

通信費半額非課税の話

昼休みにスマホを見ていると日経新聞にこんなニュースが出ていました。 www.nikkei.com 「非課税に」と言葉で言うのは簡単ですが租税法律主義(中里実先生に言わせれば租税議会主義)ですから、議会で話し合いもしていないのに勝手に政府が金銭の支給を非課…

iDeCoの税制優遇は出口が重要

拠出非課税の意味 iDeCo(個人型確定拠出年金)の税制メリットとしては「拠出時非課税(所得控除)」が特に強調されます。金融機関や証券会社のウェブサイトで「所得控除でどのくらい節税メリットがあるか」をシミュレーションできるものもたくさんあります…

給与が変動したらもらえる年金はどのくらい変わるのか

給与額決定の一要素 中小同族企業が役員の報酬を決定する際には会社の財務状況や個人の所得税など種々の事情を勘案します。 税理士だと立場上どうしても税金のことを主軸に考えてしまう傾向があるのですが、社会保険分野においては負担のみではなく受益の問…

〔書籍〕『争えば税務はもっとフェアになる』

北村豊『争えば税務はもっとフェアになる』(中央経済社2020) 納税者勝利の裁決事例をドラマ仕立てで紹介 本書は国税不服審判所の裁決事例をテーマとしており、最近の裁決事例で納税者側が勝利したものを14本紹介しています。あまり専門用語は使っておらず…

〔書籍〕『租税史回廊』

中里先生のエッセンス詰め合わせ 中里実『租税史回廊』(税務経理協会2019) 税経通信の同名連載を書籍化したもの。書名から重厚・無機質な歴史の記述が続くのかと思っていましたがそうではなく、むしろ歴史に関する記述は4分の1程度で終わります。残りのほ…

法人成りの研究(3)「節税」から「社会保険料の節約」へ

ミニマム法人あるいはマイクロ法人 前回は「税金だけでなく社会保険負担も踏まえた上で、どのくらいの所得なら法人成りをするのが得か」を計算しました。結論は、所得3,100万円以上という高いハードルでした。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 法人成りのハ…

〔書籍〕『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』

小説で読むシリーズ待望の租税法編 木山泰嗣『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』(法学書院2020) 木山先生の著作は全体的に難しいことをわかりやすく解説した良書ばかりですが、その中でも「小説で読む」シリーズは特に思い入れがあ…

法人成りの研究(2)税・社会保険負担の比較

前回の記事の続きです。前回は先行研究とネット上の説などを紹介しましたが、今回は自分なりに計算していきます。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 計算のアプローチ 今回の計算では「ビジネスによって得た収入から必要経費を引いた金額」を全ての基準としま…

法人成りの研究(1)導入編

問題意識 世の中ではよく「個人事業主も儲かってきたら法人化した方が節税になるよ」「フリーランスも所得〇〇円からは法人設立を検討した方がいいらしい」などと言われます。 税理士としてお客様からの相談も時折ありますが、実際どのくらいの所得があれば…

年末に年末調整制度について考える

税制審議会答申 『税理士界』第1395号に掲載されていた日税連から「税制審議会」への諮問に対する答申「源泉徴収制度のあり方について―令和元年度諮問に対する答申―」を読みました。 税制審議会は(特別委員)金子宏東大名誉教授を会長、中里実東大名誉教授…

〔書籍〕『本当の自由を手に入れるお金の大学』

マネーリテラシー第一歩に圧倒的オススメ 両@リベ大学長『本当の自由を手に入れるお金の大学』(朝日新聞出版2020) 正直紹介していいものなのか若干迷いましたが、紹介します。 本書『本当の自由を手に入れるお金の大学』はSNS等でお金に関する情報を発信し…

税理士から見た中退共・特退共

制度の概要 顧問先から「従業員のために退職金制度を作りたいと思っているが、どのようなものが考えられるか」という相談を受けたことがあります。 その際に自分は中小企業退職金共済をオススメしました。似たものに特定退職金共済があります。 制度をざっく…

「副業収入20万円以下なら確定申告不要」の注意点

「センセー、今年〇〇の収入があるんですけど、確定申告必要ですかね?」といった会話をする季節になってきました。 ここで、給与所得者が給与所得以外の所得が20万円以下なら確定申告不要(所得税法121条)の規定を適用することは実務上結構多いかと思いま…

法人成りの新展開

2種類の法人成り観 興味深い論文を目にしたので、今回はそれをテーマに。日本証券経済研究所のウェブサイトで公表されている田近栄治先生の論文です。 事業体選択と社会保険料—増大する社会保険料への事業主の対応と帰結— この論文ではイギリスで横行してい…

税理士という存在の経済的背景と顧問料の考え方

顧問料は”節税”に見合うべきか 以前(顧問先ではない)知り合いの経営者に「どうなの? 税理士と顧問契約すると、顧問料以上に節税効果出してくれるの?」と聞かれたことがあります。*1 素朴に考えるとそのような疑問が浮かぶ気持ちはわかります。しかし例え…

確定決算主義のお勉強

合同会社と確定決算 くどいようですが合同会社のことを考えています。以前に書いたように、合同会社には(デフォルトでは)株式会社でいう「株主総会」にあたる意思決定機関がそもそも存在しません。 そこで法人税法の確定決算主義(74条)との問題が起こる…

合同会社の税務周りの話(5)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5)←イマココ その4で終わるつもりでしたが追加編。 ☆合同会社のポイント⑪ 損益分配の計算と利益配当可…

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4)←イマココ 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3)←イマココ 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2)←イマココ 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(1)←イマココ 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 最近関与先で合同会社がちらほら増えてきました。主に、個人事業主の法人成りというか、ス…

資本金とは何か

1.資本金の説明試論 先日事務所の職員さんとの会話で、そもそも資本金とは何か?といったあたりの話になりました。 税務会計人からすれば例えば資本取引と損益取引を区分することは適正な課税所得を計算する上で重要ですし、資本金が1,000万円を超えていた…