租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

〔書籍〕『倒産続きの彼女』

新川帆立『倒産続きの彼女』 前著の『元彼の遺言状』が読みやすかったのでこちらも読んでみました(Kindle版にて)。 ネタバレ要素ありの感想。 本作も全体的にライトで、ちょっとした謎解き感を楽しみながら退屈せずに最後まで読めました。テンポ良く進んで…

外国法人とのウェブ会議を通じたコンサル報酬と消費税

『東京税理士界』Vol.156の会員相談室。 内国法人A社(コンサル業) → 外国法人B社 ウェブ会議でQ&A形式アドバイスの報酬を得た場合輸出免税になるのか、否か。 回答としては電気通信利用役務の提供になるから、役務の提供を受ける事業者の本店所在地で内外…

税理士がビジネス実務法務検定2級(IBT)受けてみた

ビジ法3級から2級へ 今月頭に東京商工会議所が主催するビジネス実務法務検定試験2級を受験(合格)しましたのでつらつらと感想を書いてみます。 なお3級は昨年受けておりまして、3級の感想やIBTの試験方式に関する細かい情報などは前回の記事で。 taxlawlaby…

退職した役員の給与を日割り支給してはいけないのか

「雇用契約である従業員と違って役員は委任関係だから、給与の締日とか日割り支給という概念がない。だから任期の中途、月の中途半端な日に退職したのであっても日割り計算で役員報酬を支給することはできない」 と実務上言われています。 「実務上言われて…

役員給与条文の読み方

法人税法34条1項の法律効果 法人税法における役員給与の規定について「定期同額給与(34条1項)に該当すれば、不相当に高額(34条2項)の規制対象から外れる」とする論文を目にしました。 それは違うと思うし中小企業実務にとっても大事なところなので、条文…

相続人が不存在の場合の準確定申告

確定申告をしていた納税者が年の中途で亡くなった場合、相続人が共同して4ヶ月以内に準確定申告をするのが通常の実務です。 では、相続人(になり得る親族)が全員相続放棄をしてしまったら準確定申告はどうなるのでしょうか。 結論として、このような場合、…

合同会社の持分の相続税評価

以前も書きましたし、ちょくちょく聞く話なのですが、日頃お客様と会話するときにも忘れないように話題に出る度に触れていこうかと。 直近の「東京税理士界」の論壇「持分会社をめぐる考察」(リンク先PDF)で持分会社の出資の評価について触れられています…

6月までに死亡した納税者に予定納税義務はない

納税者が上半期に死亡した場合の予定納税 税務署は6月15日までに、予定納税の通知を送ってきます(所得税法106条)。 しかし例えば5月にその納税者が亡くなっている場合はどうなるのでしょうか。結論としてはこの場合、予定納税の納付義務はない、すなわち納…

〔書籍〕『相続・事業承継業務をクリエイティブにする方法60』

白井一馬『顧問税理士のための相続・事業承継業務をクリエイティブにする方法60』(中央経済社2017) 「強い税理士になるための一歩踏み込んだ知識」のオンパレードといった感じの書籍。 それでいて中小企業の顧問をする税理士として無理をしない、お客様に…

〔書籍〕『元彼の遺言状』

新川帆立『元彼の遺言状』 あまりこのブログっぽくはないかもしれませんが。 最近相続法ともう少し仲良くなりたい気持ちがあって、こういう「法律要素のあるエンタメ」にも触れることでそれが達成できるのではと思い、ドラマ化することすら知らずに書店で手…

〔書籍〕『顧問税理士が教えてくれない相続・生前対策パーフェクトガイド』

岸田康雄『顧問税理士が教えてくれない相続・生前対策パーフェクトガイド』(中央経済社2018) 内容(「BOOK」データベースより)企業経営、不動産活用、金融資産運用、生命保険から民事信託まで、すべての分野に横断的な相続対策について、税負担を最小化さ…

〔書籍〕『起業のエクイティ・ファイナンス』

磯崎哲也『起業のエクイティ・ファイナンス』(ダイヤモンド社2014) 必読書の続編もまた必読書 前回記事の『起業のファイナンス』がだいぶ面白かったので勢いで続編を読みました。続編のこちらももはや8年前となりますが、現在も通用する学びが多く含まれて…

〔書籍〕『起業のファイナンス増補改訂版』

誰もが知っているスタートアップファイナンスに関する名著。学生時代に軽く目を通したことがありましたが、最近スタートアップに関わることが増えてきたため改めてじっくり読んでみました。 自分が実務に触れている状態で読んでみると、これは本当にいい本で…

「解約返戻金のピークで保険を解約する」考え

先日お客様と打ち合わせをしていて「2年後に返戻率のピークが来る保険があるんだよねー。そこで解約して、それでどうしようか」といった話が出ました。そこで感じた素朴なことを書いてみたいと思います。 「みんなわかったうえでだよ」と突っ込まれそうな非…

ビジネス実務法務検定3級(IBT)の様子と感想

ビジ法試験 先日、東京商工会議所が主催するビジネス実務法務検定試験の3級を受験(合格)しました。 その名の通りビジネスの実務で扱うような法務の知識を問う検定試験です。 税理士である私が受けた動機としては「自分を含めて税理士、民法・商法音痴多く…

続・適格請求書と誤認されるおそれのある書面

前回の記事で、インボイス制度開始後は免税事業者(未登録事業者)が「適格請求書と誤認されるおそれのある書面」を出すと刑罰があることについて書きました。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com じゃあそれってなんなのよという話が今日税務通信*1に出ていま…

適格請求書と誤認されるおそれのある書面ってなんなんでしょうか

問題意識のメモとしてタイトル通りの疑問を書いているだけの記事です。 答えはありません。 令和5年10月開始のインボイス制度の下では、相手方が仕入税額控除可能な適格請求書を発行できるのは登録している課税事業者だけです。 逆に登録を受けていない事業…

口座振替の支払いとインボイス制度

インボイス制度というとその語感もあり、支払いの都度税額を請求書・領収書で裏付けられないといけないというイメージも強いです。 しかし例えば「事務所の家賃を口座振替で毎月自動的に支払っていて、その都度請求書や領収書が出るわけではない」といった種…

簡易から本則に切り替わるときの節税の注意点

1.仕入の前倒し もうすぐ決算期末の会社が思ったより大きく利益が出ているとします。そうすると「期末になんか経費使おうかな」と考えだすのは人情です(合理性は別として)。 その際、当期は消費税の簡易課税、翌期は原則課税のときに注意すべき点を素朴…

この経理法に名前はあるのでしょうか

前払費用と未払費用の両建て 実務でたまに見かける経理処理方法の話です。 (1)前提 継続的な費用ならなんでもいいのですが、例えば「継続的に使用している業務システムの利用料を3ヶ月ごとに前払いする」という取引があるとします。4~6月分、7~9月分、1…

〔書籍〕『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』

酒井克彦『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(大蔵財務協会2021) 旧版の所有者ですが改訂版が出たということで早速ゲットしました。 本書はタイトルの通り裁判例を素材に所得税法を体系的に整理しています。 所得税法について知っておいたほうがいい裁判…

株式売渡請求権と逆転現象

1.譲渡制限の限界 マイブームにつき三連続の会社法ネタです。税理士の勉強メモなので悪しからず。 株式会社は所有と経営が分離することを前提とした会社制度ではありますが、日本の多くの中小企業ではオーナーの一族が所有も経営も支配しているのが実態で…

株主総会議事録に取締役の押印は必要か

1.出席や押印の義務は会社法には定めがない 会社法ネタ。税理士の経験的メモです。 決算確定や役員報酬の改定、事業年度変更などで(定時/臨時)株主総会を開き会社が議事録を作成することはもちろんよくあります。このとき、よくあるひな形などでは取締…

定款の目的に記載がない事業を行っているときの効力

税理士会の研修*1を見ていて、あーあるあるだなぁと思った話。 定款にはその会社の事業の目的の記載が必要で、会社はその目的の範囲内でしか権利義務を負いません。これは民法の最初の方に書いてある基本原則です。 民法第34条 法人は、法令の規定に従い、定…

保険の名義変更プランに関する通達の改正

1.名義変更プラン 数ヶ月前実務界で大騒ぎだったものを今更記事にするマンです。 生命保険の名義変更プランに関する記事は読者の少ない本ブログのわりにはよく読まれている記事なので、たとえ今更であっても情報のフォローアップはしておくべきなのではな…

事業年度変更で短い課税期間の消費税中間納付に関する条文操作

例えば3月決算法人が事業年度変更で8月決算法人に変わった場合、その期に中間納税の納付書がやってきたときにどのように対応したらいいのかと戸惑うことがあります。 X1期 X1年4月1日~X2年3月31日(年税額48万円超400万円以下) X2期 X2年4月1日~X2年8月31…

税理士がFP2級を受けた感想と勉強方法

FP

1.FP2級を受けた感想 先日FP2級(より正確には2級FP技能士?)の試験を受けてきました。多分受かっていると思うので、感想と勉強方法をメモ程度に書いてみます。 FPを受けようと思ったキッカケは3級を受けたときに書きましたが、税金以外のマネーについて…

売買と交換

お客様から交換の特例(所得税法58条)について相談がありました。 しかし、会話をしていると、どうも噛み合わない様子。 「交換の特例を受けるためには、譲渡の時期を合わせた方がいですかね?」 「合わせる??とは???」 よくよく話してみると、お客様…

〔書籍〕『「戦略会計」入門』

高田直芳『「戦略会計」入門』(日本実業出版社2007) 少し前の本ですが、見かける度に少し気になっていたのでふと気が向いて買ってみました。 会計学と経済学との融合をテーマに掲げており、その部分に興味があったため楽しみに読みました。 本書の魅力とし…

税務における株価評価に改正の気配(残余利益法)

あなたは加藤論文の存在を知っていますか 最近、佐藤信祐先生が書かれた下記の本を読んでいます。 これまで佐藤先生の本というと組織再編に関する技術的な内容のものを読むことが多く、そういうイメージを持ちがちだったのですが、本書は博士論文をバックボ…